院長　豊山弘之　　2024年4月

2023年に認可されたアルツハイマー型認知症の新薬、レカネマブについてのお問合せが一時期殺到したことがありました。メディアでも大きく取り上げられ、その社会的関心度の高さには驚きました。

臨床治験が終了し、2024年には日本でも本格的に使用が可能となり、その効果についての注目が集まっております。

お問合せの中には「物忘れ＝アルツハイマー」という誤解を持つ人が多くいらっしゃいました。

　一部の報道が不安を煽る形で伝えられているため、正しい知識を持ち、それを診断や治療に活かす必要性を感じています。

　認知症の原因の約半数はアルツハイマー型ですが、その他レビー小体病や脳血管障害型認知症など、混合型のものも存在します。

　しかし、これらの認知症に突然なることはその病態からしてもほぼあり得ません。

　数日、数週と短期間で変化する場合、脳卒中や硬膜下血腫、水頭症、脳腫瘍などを疑うべきかもしれません。

　また高齢者だけでなく、比較的若い方でも仕事上のうっかりやミスから物忘れれを心配し、相談に来られることもしばしばあります。うつ病やホルモン障害などを見逃さないように注意が必要です。

アルツハイマー病の原因とされているのは、アミロイドβ（Aβ）と呼ばれるタンパク質が脳へ蓄積することです。Aβは通常、脳内でバラバラに存在しており健常な脳ではこれを取り除く機能があります。しかしアルツハイマー病ではAβが塊となって蓄積し、脳細胞を破壊し、脳が萎縮してゆくのです。

　新薬のレカネマブはこのAβ蛋白を除去できるため初期段階であれば病状の進行を抑えることが可能です。

　初期段階であることが前提となりますが、新薬レカネマブの使用にあたってはアミロイドβが脳に蓄積しているかどうかを髄液（腰から採取）かアミロイドPETという検査によって確認する必要があります。

　（当院では、MCIの状態で新薬使用できる方に対して、当地の認知症疾患医療センターでもある焼津市立総合病院脳神経内科と連携を組み、MCIかつアルツハイマー病の初期段階にある方々の早期治療を目指しております。）

　新薬の期待に注目が集まりがちですが、従来から使われているアルツハイマーの進行を抑える薬剤（ドネペジル、メマンチン、レバスチグミン）も一般的に使われています。これらの薬剤は初期から重度にわたり使用可能であり、日常生活に支障をきたすレベルであれば積極的に投薬が推奨されます。

　また適切な生活習慣を取り入れることで認知症の進行を抑えることも可能です。（図参照）

例えば、私の場合ですが、幼少期から野球が好きで大学時代はラグビー部に所属していました。以下のような活動が認知症予防になるかもしれません。

・定期的に練習や試合を通して運動を心がける（運動療法）

・試合をイメージしたり戦略を組み立てたりメンバーと話し合う。（認知刺激療法）

・スポーツ観戦するため各地へ赴き、そのために格安チケットを探してみたりと旅程を計画する（地誌的刺激療法）

・試合後にはお酒は控えめに食事をとり、カラオケで歌う（音楽療法）

・皆で過去の試合を振り返ってみる（回想療法）

こんなところでしょうか。

決して模範的ではありません‥

　食事療法については、私たち専門医の間でも話題となっている非常に興味深い報告があります。次回のコラムでご紹介いたします。

引用）

エーザイ株式会社,バイオジェン・ジャパン株式会社
配布資料(2023)「”もの忘れ"が気になる方とそのご家族へ　アルツハイマー病の検査と治療について」